東京地方裁判所 平成2年(ワ)10052号 判決 1992年3月30日
東京都新宿区歌舞伎町二丁目四一番八号
原告
株式会社土壌浄化センター
右代表者代表取締役
新見正彰
右訴訟代理人弁護士
梶山正三
同
薦田哲
同
釜井英法
同
菅野庄一
東京都西多摩郡奥多摩町氷川一一六五番地
被告
有限会社榎木工業
右代表者代表取締役
榎森清
右訴訟代理人弁護士
野上邦五郎
鳥取県米子市米原三一番地
被告
大成工業株式会社
右代表者代表取締役
佐藤幹
右被告両名訴訟代理人弁護士
吉原省三
同
小松勉
同
松本操
右被告両名訴訟復代理人弁護士
三輪拓也
東京都新宿区西新宿二丁目八番一号
被告
東京都
右代表者知事
鈴木俊一
右指定代理人
西道隆
同
村瀬勝元
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 原告の請求
被告らは、原告に対し、連帯して、金二〇六万五一五〇円並びにこれに対する被告有限会社榎木工業については平成二年八月二六日から、被告東京都及び被告大成工業株式会社については平成二年八月二八日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 本件は、原告が本判決添付の特許公報記載の特許権(本件特許権。登録日昭和五八年八月一〇日、登録番号第一一六二二三八号)を有するものであるところ、被告榎木工業が、東京都西多摩郡奥多摩町川野地区所在の山のふるさと村において、別紙被告方法目録記載の方法(被告方法)を用いた排水処理施設の工事(本件工事。なお、以下、本件工事が施工された右土地を「本件土地」という。)を施工したことに関し、原告が、本件土地において被告方法を行うことは特許公報請求の範囲第1項記載に係る発明(本件発明)の技術的範囲に属するものであって、被告大成工業は本件工事の施工を指導したものであり、被告東京都は被告榎木工業に本件工事を発注したうえ、被告大成工業の指導に従うよう指示するなどしたから、被告らの右各行為は本件特許権を共同して侵害するものであると主張して、被告らに対し、損害賠償の支払を求めた事案である。
二 争いのない事実
1 原告は、本件特許権を有している。なお、本件特許権については、訴外奥薗清に対し、地域を日本全国とし、期間を特許権の権利消滅に至るまでとし、内容を全範囲とする専用実施権が設定されている。
2 被告榎木工業は、平成元年一〇月ころから平成二年六月ころまでの間に、本件土地において、本件工事即ち被告方法を用いた排水処理施設の工事を施工し、これを完成させた。
3 本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(本件明細書)の特許請求の範囲第1項記載の発明(本件判決添付の特許公報の該当項参照)の構成要件は、次の(一)ないし(六)のとおりである(以下、右の構成要件(一)を単に「要件(一)」ということとし、他の要件についても同様に表示する。)。
(一) 傾斜地の上部で処理すべき汚水を放出し、該傾斜に従って当該汚水を浸透流下させることにより汚水処理を行う傾斜地利用の汚水処理方法において、
(二) 傾斜角度を有し、殆ど透水しない基盤上に適当な土壌層を設定し、
(三) 傾斜上部における前記土壌中で前記汚水を放出し、
(四) この土壌層中で誘導毛管現象を惹起せしめて土壌中で不飽和条件での汚水の浸透移動を生ぜしめ、
(五) 当該浸透移動の過程で汚水処理を行うことを特徴とする
(六) 傾斜地利用の汚水処理方法
三 争点
本件においては、本件土地に施工された被告方法が本件発明の技術的範囲に属するか否かが争点であり、被告らは、被告方法が要件(一)ないし(六)のすべてを充足しておらず、方法がまったく異なるものである旨争っているが、このうち、要件(二)に関する当事者双方の主張は次のとおりである。
なお、以下において、本件発明に関する番号・記号は本件明細書及びその添付図面記載のものを指し、被告方法に関する番号・記号は別紙被告方法目録記載のものを指す。
1 原告
本件発明は不透水層の深さ即ち土壌層の厚さをその要件としていないし、土壌層の厚さは本件発明において本質的なものではない。本件明細書には、この土壌層の厚さは五〇センチメートル以下が最適であると記載されているが、右は、本件発明の実施例の一つを示したにすぎない。土壌層の厚さが五〇センチメートル以下が最適であるとする根拠は、土壌層が流亡する危険があるからであり、右危険がないような安定した傾斜地では、土壌層の厚さは問題にならない。
本件土地は、傾斜地であって、ほとんど透水しない小河内層群の母岩の上に自然力で形成された岩屑と粘土を含んだ山砂利の多い透水性土壌が約一メートルから数メートルの厚さで堆積しているものであるから、「傾斜角度を有し、殆ど透水しない基盤上に適当な土壌層」に該当する。
被告は、本件発明は不透水層に沿った浸透水流によって上層の土壌中に誘導毛管現象を惹起せしめようとするものであるから、「殆ど透水しない基盤上に適当な土壌層を設定する」とは、発明の詳細な説明欄にあるように、五〇センチメートル程度の深さに不透水層の基盤のある土壌層を意味している旨主張する。しかしながら、本件特許請求の範囲は、単に「この土壌層中で誘導毛管現象を惹起せしめて土壌層中で不飽和条件での汚水の浸透移動を生ぜしめ」としており、誘導毛管現象を生じるのに飽和浸透水流が基盤に沿って発生することを前提としていないことは明らかであり、不透水層に沿った浸透水流の存否は不飽和条件で移動する水流の存在の前提条件ではないといわなければならない。土の毛細管のサイホン作用が生ずる条件下であれば、不透水層に沿って流れる飽和浸透水流が存在しなくても誘導毛管現象が生ずるのであって、本件発明は、右のサイホン作用による誘導毛管現象を汚水処理に応用したものである。本件明細書中の「この現象で土壌中の表面に近い位置を不飽和条件で汚水が移動することを汚水処理に応用したものが本発明である。」(公報4欄41行ないし43行)の記載は、「土の毛細管のサイホン作用による誘導毛管現象を汚水処理に応用したものである。」との趣旨であって、不透水層に沿って流れる飽和浸透水流は誘導毛管現象が発見された際に存在していたものに過ぎず、本件公報の詳細な説明はその発見過程を述べているにすぎない。
2 被告ら
本件発明は、「傾斜地の上部で処理すべき汚水を放出し、該傾斜に従って当該汚水を浸透流下させることにより汚水処理を行う傾斜地利用の汚水処理方法」でなければならず、「傾斜角度を有し、殆ど透水しない基盤上に適当な土壌層を設定し」、ここに汚水を放出して「この土壌層中で誘導毛管現象を惹起せしめて土壌中で不飽和条件での汚水の浸透移動を生ぜしめ、」、この現象を利用して汚水の処理をしようとするものであり、この誘導毛管現象については、本件明細書の詳細な説明において、「ここで、前記誘導毛管現象とは、土堰堤の漏水現象の研究過程で発見された公知の現象であり、不透水層に沿って流れる飽和浸透水流の上部土壌層に同方向に流れる不飽和の浸透水流が発生する現象をいい、この現象で土壌中の表面に近い位置を不飽和条件汚水が移動することを汚水処理に応用したものが本発明方法である。」(本件公報4欄37行ないし43行)と説明されているから、本件発明において、不透水層に沿って流れる飽和浸透水流の発生が前提条件とされているといわなければならない。すなわち、本件発明においては、傾斜上部から汚水を放出した場合に、「不透水層に沿って流れる飽和浸透水流の上部土壌層に同方向に流れる不飽和の浸透水流が発生する現象」を利用し、「この現象で土壌中の表面に近い位置を不飽和条件で汚水が移動することを汚水処理に応用」することが必要であり、そのためには、土壌層の厚さはそのような飽和浸透水流が生じうる厚さでなければならないのであって、要件(二)において、「傾斜角度を有し、殆ど透水しない基盤上に適当な土壌層を設定」することが要件とされているのは右の理由によるものである。
そして、明細書には、「不透水層の上に堆積している土壌層の厚さは五〇センチメートルが最適である」と説明されているから、「殆ど透水しない基盤上に適当な土壌層」とは、不透水層の上に堆積している土壌層の厚さが五〇センチメートル程度のもの、すなわち、五〇センチメートル程度の深さに不透水層の基盤がある土壌層をいうと解すべきである。
以上を要するに、本件発明は、母岩等の不透水層のうえに土壌が五〇センチメートルほど堆積した傾斜地を利用して、その傾斜上部から汚水を土中に放出し、汚水が土中を流れて傾斜下部から流出する間に自然現象によって浄化しようとするものであって、若干の傾斜角度を有し、殆ど透水しない基盤の上に五〇センチメートル程度の深さに土壌が堆積した場所を選定する必要があるものである。
本件においては、被告方法が施工された本件土地においては、不透水層である小河内層群は地下九・四五メートルないし一七・二メートルに存在するものであって、不透水層の上に堆積している土壌層の厚さが五〇センチメートル程度の「殆ど透水しない基盤上に適当な土壌層」の要件を充足していないものである。また、一〇メートル以上もの深さにある不透水層に沿った浸透水流によって、土壌中の表面に近い位置を不飽和条件で移動する水流が生じるとは考えられないから、一〇メートル以上もの深さに不透水層がある本件土地は、「殆ど透水しない基盤」を有しないものともいうことができる。
第三 争点に対する判断
一 要件(二)を充足しているか否かについて、検討する。
二 本件明細書の特許請求の範囲第1項には、「傾斜角度を有し、殆ど透水しない基盤上に適当な土壌層を設定し」と記載されているが、右の特許請求の範囲の記載だけでは、「適当な土壌層」の具体的内容が明らかでないから、本件明細書の記載等を参酌することとする。そして、本件明細書の発明の詳細な説明の項には、本件発明は、「後述する誘導毛管現象を研究解明して、それを傾斜地利用の汚水処理方法に応用した汚水処理方法であり」(本件公報4欄25行ないし27行)、「ここで、前記誘導毛管現象とは、土堰堤の漏水現象の研究過程で発見された公知の現象であり、不透水層に沿って流れる飽和浸透水流の上部土壌層に同方向に流れる不飽和の浸透水流が発生する現象をいい、この現象で土壌中の表面に近い位置を不飽和条件汚水が移動することを汚水処理に応用したものが本発明方法である。」(本件公報4欄37行ないし43行)と記載されていることが認められる。また、本件明細書の発明の詳細な説明の項には、本件発明の実施例の説明として、「第2図において、若角(注-若干の誤記と思われる。)の傾斜角を有し、殆ど透水しない基盤としての母岩1上には、土壌層2が堆積しており、該層2は、透水係数が小さい緻密な土壌層3と、透水係数が最大である土壌層4と、カビ類が付着して透水係数が極めて小さくなっている腐食植物等からなる層5とから形成されている。」(本件公報5欄5行ないし11行)、「前記放出管8を通じて処理すべき汚水を、適当な流量、流速、流圧で、断続的又は、連続的に土壌層4に放出すると、放出された汚水は、一時的に水槽7内に停滞し、該槽7の最高水位になった時に水槽7から溢水し、土壌層4中を傾斜に従って流下していこうとする。この場合、流下汚水の一部は、緻密土壌層3を矢印A方向に浸透していく飽和浸透水を呈するが、残部は、前述の誘導毛管現象により、透水係数小(注-大の誤記と思われる。)の土壌層4を矢印Bの方向に浸透していく不飽和条件での浸透水を呈する。」(本件公報5欄22行ないし32行)と記載されていることが認められる。また、証拠(甲一九、二〇、二一、乙一二)によれば、誘導毛管現象とは、地下水面に接する毛管水帯の水分が地下水の流動の方向にこれに類似した運動をする現象のことを意味し、もともとは、傾斜して流れている飽和の地下水の流れの上方に、右地下水流に伴って生じた不飽和の水の流れが飽和の水の流れと同じ方向に生ずる現象をいうものであること、本件発明における不透水層に沿って流れる飽和浸透水流は、右の地下水流に相当することが認められる。
右認定の事実によると、傾斜角度を有した不透水層が存在する場合には、飽和浸透水流もその傾斜角度に沿って流れ、不透水層が存しない場合には、ある一定の方向に流れる飽和浸透水流は形成されないこと、本件発明は、誘導毛管現象を利用するものであるところ、右誘導毛管現象とは、公知の「不透水層に沿って流れる飽和浸透水流の上部土壌層に同方向に流れる不飽和の浸透水流が発生する現象」であることが認められるから、要件(二)の「傾斜角度を有し、殆ど透水しない基盤上に適当な土壌層」とは、不透水層に沿って流れる飽和浸透水流が発生することを前提としているものと解するのが相当であり、したがって、右「適当な土壌層」とは、そのような飽和浸透水流が発生し、右誘導毛管現象を生じさせることが可能な程度の厚さでなければならないものというべきである。
この点に対し、原告は、本件発明は、誘導毛管現象を生じさせるのに飽和浸透水流が基盤に沿って形成されることを前提としておらず、不透水層に沿った浸透水流の存否は不飽和条件で移動する水流の存在の要件ではないとし、本件明細書の発明の詳細な説明の項における「この現象で土壌中の表面に近い位置を不飽和条件汚水が移動することを汚水処理に応用したものが本発明方法である。」(本件公報4欄41行ないし43行)との記載は、「土の毛細管のサイホン作用が生ずる条件下であれば、不透水層に沿って流れる飽和浸透水流が存在しなくても誘導毛管現象が生ずるのであり、右のサイホン作用による誘導毛管現象を汚水処理に応用したものが本件発明である。」との趣旨である旨主張する。しかしながら、本件発明において、「傾斜角度を有し、殆ど透水しない基盤上に適当な土壌層を設定」することが要件とされているところ、右「殆ど透水しない基盤」が必要な理由は、傾斜上部から汚水を放出した場合に、「不透水層に沿って流れる飽和浸透水流の上部土壌層に同方向に流れる不飽和の浸透水流が発生する現象」(本件公報4欄37行ないし43行)を利用し、不透水層に沿って流れる飽和浸透水流を形成するため以外には本件明細書中にその理由は見出しえないのであるから、原告の主張のように解すると、要件(二)の「傾斜角度を有し、殆ど透水しない基盤上に適当な土壌層を設定」する意味がなくなるといわざるをえない。また、誘導毛管現象の意義については、本件明細書には原告の主張のように定義付けた記載はまったくなく、証拠(甲一九、二〇、二一、乙一二の一ないし三)に照らしても、原告主張のように解することはできない。
なお、被告は、本件発明は、母岩等の不透水層のうえに土壌が五〇センチメートルほど堆積した傾斜地を利用して、その傾斜上部から汚水を土中に放出し、汚水が土中を流れて傾斜下部から流出する間に自然現象によって浄化しようとするものであって、若干の傾斜角度を有し、殆ど透水しない基盤の上に五〇センチメートル程度の深さに土壌が堆積した場所を選定する必要があるものである旨主張するが、実施態様項である本件特許請求の範囲第6項に「土壌層の厚さが、約五〇センチメートル以下である特許請求の範囲第1項又は第3項又は第4項記載の汚水処理方法」とあることに照らすと、必須要件項である本件特許請求の範囲第1項の解釈において、土壌層が五〇センチメートル程度の厚さであることを要件とするとまでは言い切れないものというべきである。
三 そこで、被告方法及び被告方法が施工された本件土地について、検討する。
別紙被告方法目録及び証拠(甲二、三、五の一・二、八、一四ないし一六、一七の一ないし三、乙二の一ないし三、三、四、六、七、九、一〇の一・二、一二の一ないし四、一八の一・二、二〇の一ないし四、二一の一ないし三)によれば、(1)被告方法が施工された本件土地は、別紙被告方法目録第1図(以下、同目録の図面は図面番号のみで表示する。)の地図の等高線で示されるように、緩傾斜地であること、(2)本件土地一帯の地質は、古生代から古第三紀の堆積岩へ弱変成岩の分布する四万十帯に含まれ、現地では古生代ジュラ紀の小河内層群が分布していること、昭和五九年に行われた現地北部での奥多摩湖付近における地質調査結果によると、頁岩あるいは砂岩を主体とする中生代ジュラ紀の小河内層群を基盤とし、その上に第四系の崖錐堆積層、ローム層、表土層が分布し、右各層の厚さは、地表から順に、表土層が〇・二メートル、埋土層が二・〇ないし二・三メートル、ローム層が一・八ないし三・五メートル、崖錐堆積層が五・四五ないし一一・二メートルであり、小河内層群が右各層の最下部に位置する不透水層であること、したがって、小河内層群は地下九・四五メートルないし一七・二メートルに存在するものと考えられること、(3)本件土地には、長方形の箱形で、中央にモノフィラメントチューブがあり、その両脇にテトロン剛毛のヘチマ構造物が設けられ、下部を不透水シートで包み上方を不織布で覆ってある浸潤処理装置Gが地表面から四〇センチメートルないし一メートルの深さに、ほぼ等高線に沿って多数埋設されていること、(4)対象水は、排水処理処理施設Aから浸潤処理装置Gにパイプ等を経て移流され、浸潤処理装置Gから毛管浸潤作用によって土壌層に不飽和の流れとなって浸潤・拡散すること、(5)浸潤処理装置Gのような毛管浸潤マットを地表面から〇・五メートルの間に置いた場合、水が浸潤する深さは約一・五メートルまでであること、(6)約一〇メートルもの深さにある不透水層に沿った浸透水流によって、土壌中の表面に近い位置を不飽和条件で移動する水流が生じるとは考えられないこと、(7)植物の根が、土壌中で新陳代謝に役立つのは地表から一〇〇センチメートル以下の根であり、土壌の微生物は五〇センチメートル程度のところで活動し、土壌中の動物はこれよりやや浅い三〇センチメートル程度のところで活動しており、これらの生物は、一〇〇センチメートルより深いところではあまり活動していないこと、以上の諸事実が認められる。
右認定事実によれば、本件土地に施工された被告方法においては、不透水層である小河内層群が浸潤処理装置Gから浸潤した水の流れに対し、何らかの影響を与えているか、あるいは浸潤処理装置Gから浸潤した水の流れが小河内層群に到達して飽和浸透水流を形成しているものと認めることはできず、九・四五メートルないし一七・二メートルの厚さの表土層、ローム層、崖錐堆積層からなる土壌層は、飽和浸透水流が発生し、誘導毛管現象を生じさせることが可能な程度の厚さでないから、「傾斜角度を有し、殆ど「透水しない基盤」である小河内層群の上に設定された「適当な土壌層」ということはできない。
四 右のとおり、本件土地に施工された被告方法は、要件(二)を充足しない。
五 以上によれば、本件土地に施工された被告方法は、その余の要件について検討するまでもなく、本件発明の技術的範囲に属さないから、原告の本訴請求は理由がない。
(裁判長裁判官 一宮和夫 裁判官 足立謙三 裁判官 長谷川浩二)
被告方法目録
一、現地は、第1図の地図の等高線で示されるように、暖傾斜地の草地である。
二、現地には、第2図に示されるように、排水処理施設Aが設けられ、また現地の地下には、傾斜地の上部に、分水槽四基(主槽一基C、副槽三基E)が設置され、更に第3図に示されるように、浸潤処理装置Gが地表面から四〇センチメートルないし一メートルの深さに、ほぼ等高線に沿って多数埋設されている。排水処理施設Aと主分水槽CとはパイプBによって、主分水槽Cと副分水槽EとはパイプDによって、副分水槽Eと浸潤処理装置GとはパイプFによってそれぞれ接続されている。浸潤処理装置Gの先端部に点検口が設けられている。また、検査桝Hが第2図、第3図の位置に第8図のように一基設けられ、この区域から浸出した水の水質を検査するようになっている。
三、浸潤処理装置Gの構造は、別紙第4図及び、第5図のとおりであり、その設置状況は、第6図ないし第8図のとおりである。
四、対象水は、排水処理施設AからパイプBを経て主分水槽Cにポンプアップされ、そこからパイプDを経て副分水槽Eに自然流下によって分水され、さらにパイプFを経て浸潤処理装置Gに移流される。そして、対象水は、浸潤処理装置Gから毛管浸潤作用によって土壌層に不飽和の流れとなって浸潤・拡散する。
以上
第1図
<省略>
第2図
<省略>
第3図
<省略>
第4図
<省略>
第5図
<省略>
第6図
<省略>
第7図
<省略>
第8図
<省略>
<19>日本国特許庁(JP) <11>特許出願公告
<12>特許公報(B2) 昭57-54194
<51>Int.Cl.3C 02F 3/00 識別記号 庁内記号 庁内整理番号6359-4D <22><44>公告 昭和57年(1982)11月17日
発明の数 2
No1162238
<54>傾斜地利用の汚水処理方法およびその装置
<21>特願 昭55-26233
<22>出願 昭55(1980)3月3日
<65>公開 昭56-121688
<43>昭56(1981)9月24日
<72>発明者 新見正
東京都中野区松が丘一丁目30番8-713号
<72>発明者 新見正則
東京都渋谷区元代々木町46番地2号
<71>出願人 新見正
東京都中野区松が丘一丁目30番8-713号
<71>出願人 新見正彰
東京都中野区松が丘一丁目30番8-412号
<74>代理人 弁理士 鵜沼辰之 外2名
(公害防止関連技術)
<57>特許請求の範囲
1 傾斜地の上部で処理すべき汚水を放出し、該傾斜に従つて当該汚水を浸透流下させることにより汚水処理を行なう傾斜地利用の汚水処理方法において、傾斜角度を有し、殆ど透水しない基盤上に適当な土壌層を設定し、傾斜上部における前記土壌中で前記汚水を放出し、この土壌層中で誘導毛管現象を惹起せしめて土壌層中で不飽和条件での汚水処理を行なうことを特徴とする傾斜地利用の汚水処理方法。
2 基盤が、母岩である特許請求の範囲第1項記載の汚水処理方法。
3 土壌層が、下層が透水係数小なる土壌層で、上層が透水係数大なる土壌層で形成された特許請求の範囲第1項記載の汚水処理方法。
4 上層土壌層が、下層土壌層よりも充分に厚い特許請求の範囲第3項記載の汚水処理方法。
5 土壌層の最上層が、透水係数が極めて小さい土壌層である特許請求の範囲第1項又は第3項又は第4項記載の汚水処理方法。
6 土壌層の厚さが、約50cm以下である特許請求の範囲第1項又は第3項又は第4項記載の汚水処理方法。
7 土壌層が、自然力で形成された土壌層である特許請求の範囲第1項ないし第4項のいずれかに記載の汚水処理方法。
8 基盤および土壌層が、人工的に造成された特許請求の範囲第1項記載の汚水処理方法。
9 汚水の放出を断続的に行なう特許請求の範囲第1項記載の汚水処理方法。
10 傾斜地の上部で処理すべき汚水を放出し、該傾斜に従つて当該汚水を浸透流下させることにより汚水処理を行なう傾斜地利用の汚水処理装置において、若干の傾斜角度を有し、殆ど透水しない基盤上に適当な土壌を設定すると共に、傾斜上部における前記土壌中に前記汚水を放出する放出管を埋設して成り、この土壌層中で誘導毛管現象を惹起せしめて土壌層中で不飽和条件での汚水の浸透移動を生ぜしめ、当該浸透移動の過程で汚水処理を行なうようにしたことを特徴とする傾斜地利用の汚水処理装置。
11 汚水放出管が、その下方に放出した汚水を一時的に停滞させる水槽を有する特許請求の範囲第10項記載の汚水処理装置。
12 汚水放出管が、汚水を断続的に放出可能な特許請求の範囲第10項又は第11項記載の汚水処理装置。
13 汚水放出管が、汚水を連続的に放出可能な特許請求的範囲第10項又は第11項記載の汚水処理装置。
14 汚水放出管が、土壌層中に横向きに敷設された特許請求的範囲第10項記載の汚水処理装置。
15 水槽が、合成樹脂膜で製された不透水性の水槽である特許請求の範囲第11項記載の汚水処理装置。
発明の詳細な説明
本発明は、傾斜地の上部で処理すべき汚水を放出し、当該傾斜に従つて当該汚水を浸透流下させることにより汚水の浄化、回収等の各種の処理を行なう傾斜地利用の汚水処理方法、および、その処理方法を直接実施するに好適な汚水処理装置に係り、特に、所謂誘導毛管現象を有効利用した傾斜地での汚水処理方法、および、その装置に関する。
現在、土壌活用による都市汚水、工場廃水等の浄化、清水回収、その他各種の汚水処理の方法(以下単に汚水処理方法という。)として、かんがい法、浸透濾過法と共に、地表面流下法が公知であり、この地表面流下法の1例として、第1図に示す如き方法がある。第1図に示す地表面流下法は、勾配2~6%を有する傾斜地土壌21上の上部で、スプリンクラー22等の手段により汚水23を撒水し、該土壌21において、浸透25、蒸発26、草植生等の吸収27等により、汚水23の浄化作用を生ぜしめ、傾斜の下部の集水路24で流出水を集水し、浄化水の回収を行なうものである。
この種の地表面流下法の特性を他の汚水処理方法と比較すると、<1>汚水処理量が、浸透濾過法に比較して1/2~1/20と小さいが、かんがい法に比較して3~4倍程度大きい。<2>表面土壌が粘土質ロームや粘土質の如き透水性の低い土壌の場合に有効である。<3>傾斜地が活用できる。等の利点がある。しかしながら、<1>地下水涵養法として活用できない。<2>寒冷地での使用が不適当である。<3>リンの除去能力が小さい。等の欠点がある。
本発明の第一の目的は、前記欠点を解決しながら、地表面流下法の持つ利点を最大限に発揮させ得る傾斜地利用の汚水処理方法およびそれを実施する汚水処理装置を提供するにある。
ところで、日本国の如く、傾斜地の山林面積が大きく、地形が複雑で起伏に登んでいる山岳国、山岳地帯、高原地帯等にあつては、傾斜地利用の汚水処理方法は、汚水処理自体から得ることができる効果ばかりでなく、利用不能地や休閑地等の有効利用、傾斜地の地域開発促進等の点で、多大の効果を奏する。
しかし、日本国等の如き山岳島国、高原地帯等における傾斜地は、大陸の平野部に見られる活用し易い傾斜地と異なり、非常に窪みや隆起が多いため、前述の地表面流下法を実施した場合、傾斜地上の上部で汚水を撒水すると、その撒水汚水が傾斜地の窪みに集水して渓流となつてしまい、前記土壌の汚水処理作用が発揮されない。よつて、かかる傾斜地では地表面流下法は不適当となる。
また、日本国等の如く温帯地方に位置する傾斜地は、長い間殆ど植物で覆われていたため、土壌面が腐蝕植物を主体とする透水性の高い土壌層で形成されているのが通例である。このため、前述の地表面流下法の利点たる表面土壌が透水性の低い土壌の場合に有効である特性が活用し難く、よつて、かかる傾斜地では地表面流下法適用し難い。
本発明の第2の目的は、目本国における場合の如く、窪みや隆起が多い、また、表面が透水性の高い土壌層で形成された傾斜地においても充分に適用できて、傾斜地の有効利用が可能な傾斜地利用の汚水処理方法およびそれを実施する汚水処理装置を提供するにある。
本発明は、前述の第1、第2の目的を達成する手段として、後述する誘導毛管現象を研究解明して、それを傾斜地利用の汚水処理方法に応用した汚水処理方法であり、若干の傾斜角度を有し、殆ど透水しない基盤上に適当な土壌層を設定し、傾斜上部における前記土壌中で処理すべき汚水を放出し、この土壌中で誘導毛管現象を惹起せしめることにより土壌中を不飽和状態で汚水を浸透移動せしめ、もつて、汚水の各種処理を行なうことを特徴とする。また、本発明は、前記本発明方法を最適に実施するため、傾斜上部における土壌中で処理すべき汚水を最良、高能率的に放出可能な放出管を有することを特徴とする。
ここで、前記誘導毛管現象とは、土堰堤の漏水現象の研究過程で発見された公知の現象であり、不透水層に沿つて流れる飽和浸透水流の上部土壌層に同方向に流れる不飽和の浸透水流が発生する現象をいい、この現象で土壌中の表面に近い位置を不飽和条件で汚水が移動することを汚水処理に応用したものが本発明方法である。
以下図面に即して本発明実施の1例を説明する。
第2図は、本発明方法を効果的に実施するに好適な本発明汚水処理装置を使用して、本発明にかかる傾斜地利用の汚水処理方法を実施している状況を示すもので、まず、その構成について説明すると、第2図において、若角の傾斜角を有し、殆ど透水しない基盤としての母岩1上には、土壌層2が堆積しており、該層2は、透水係数が小さい致密な土壌層3と、透水係数が最大である土壌層4と、カビ類が付着して透水係数が極めて小さくなつている腐蝕植物等からなる層5とから形成されている。土壌層2の厚さHは、50cm程度よりも厚くなると、流亡する危険があるので、傾斜角度により異なるが、ほぼ50cm以下が最適である。土壌層2には、適当な植物6が植設されている。
母岩1の傾斜上部であつて前記透水係数大の土壌層4内には、合成樹脂膜等で製された不透水性の水槽7が埋設され。該槽7の上方には、汚水を土壌層4中に断続的及び/又は連続的に放出可能な放出管8が、該槽7に近接して埋設されている。
次に、本発明汚水処理方法の1実施例を、前記構成にかかる本発明汚水処理装置を使用した場合について説明する。前記放出管8を通じて処理すべき汚水を、適当な流量、流速、流圧で、断続的又は、連続的に土壌層4に放出すると、放出された汚水は、一時的に水槽7内に停帯し、該槽7の最高水位になつた時に水槽7から溢水し、土壌層4中を傾斜に従つて流下していこうとする。この場合、流下汚水の一部は、厳密土壌層3を矢印A方向に浸透していく飽和浸透水を呈するが、残部は、前述の誘導毛管現象により、透水係数小の土壌層4を矢印B方向に浸透していく不飽和条件での浸透水を呈する。尚、第2図に示す如く、土壌層4の厚さが土壌層3のそれよりも厚い場合、不飽和条件で浸透する汚水の量が、飽和条件で浸透する汚水の量よりも多大であり、また、浸透する距離が長いほど、不飽和浸透水の量が多大となる。
前記各浸透により、汚水は、土壌層2中の一部に停滞することなく、傾斜最下部に向つて最後まで移動していく。この浸透移動の過程で、汚水は、その一部が矢印Cで示す如く植物6の根により吸収され、他の一部が矢印Dで示す如く土壌層2の表面から蒸発し、他の一部が矢印Eで示す如く母岩1の割れ目9から逃散する等により、次第に浄化し、その残部が、傾斜最下部に設けられる排水路(不図示)に浸出する。
前記本発明の1実施例によれば、汚水処理後の浸出水の回収率は、50~60%と地表面流下法とほぼ同一の値を得ることができ、しかも、汚水処理効率は、BODにおいて98~99%、窒素除去において80~90%、リン除去において、99%と、他の3種の土壌活用による汚水処理方法に比較して遥かに高率を得ることができた。ちなみに、かんがい法のそれは、BOD=90~99%、窒素除=85~90%、リン除去=80~99%、地表面流下法のそれは、BOD=90~99%、窒素除去=70~90%、リン除去=50~60%、浸透濾過法のそれは、BOD=90~99%、窒素除去=0~80%、リン除去=70~95%、である。
また、汚水の放出を適当な間隔で断続的に行なつた場合、汚水が水槽7内に停滞して、該槽において最高水位と最低水位との間を変位し、土壌層2中が、嫌気条件と好気条件とを繰返し、窒素除去に有効に作用させることができると共に、傾斜面の窪みや隆起地形に対し、均等に汚水を供給することができ、よつて、傾斜地の全面積に渡つて有効に前記誘導毛管現象を発生せしめることができる。
汚水を土壌層中で放出するので、寒冷地でも実施でき、撒水器で、土壌層の表面に汚水を撒水する場合のような病源菌拡散の危険がない。
さらに、誘導毛管現象により、汚水を不飽和条件で、傾斜に従い浸透移動させるのであるから、放出管は、10~30mの如き大きい間隔で設定すればよく、浸出水の回収も排出路を傾斜最下部に敷設するだけでよく、設備費等を大幅に低減できる。
表層の腐蝕植物層を撤去することなく、そのまま残存させて汚水処理方法を実施したので、腐蝕植物等に含有した有機物中の炭素源を有効に作用させて窒素除去が促進できる。
尚、本発明は、自然力によつて形成された傾斜地の土壌層を利用する場合に限らず、人工的に実施に適した傾斜地、土壌層を造成することもできる。例えば、母岩をコンクリートで構築したり、鉄、木、合成樹脂等を傾斜板状に敷設したりすることにより構成することが可能である。本発明は、傾斜上部における土壌中で汚水を放出し、土壌中で誘導毛管現象を惹起せしめれば、充分な効果を得ることができるので、表層の腐蝕植物層および不透水製水槽は省略してもよい。また、放出管は横向きに敷設する場合に限らず、縦向きに適数本植設してもよい。この他、本発明は、種々の変形が可能である。
以上説明する如く、本発明は、傾斜地の傾斜上部で土壌中に汚水を放出することにより汚水処理を行なうものであるから、従来の地表面流下法の欠点を解決して、その利点を最大限発揮させることができ、傾斜地の有効利用を図ることができ、土壌中に汚水を放出する方法であるから、必要に応じ、窪みや隆起が多い、及び/又は、表面が透水性の高い土壌層で形成された傾斜地においても充分適用でき、充分な汚水処理効果を得ることができる。
図面の簡単な説明
第1図は、従来の地表面流下法を示す縦断面図、第2図は、本発明実施の1例を示す縦断面図、である。
1……母岩、2……土壌層、3……透水係数小なる土壌層、4……透水係数大なる土壌層、5……腐蝕植物土壌層、6……植物、7……水槽、8……放出管。
第1図
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第2図
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特許公報
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